水族館の役割とは|生き物と環境のこれから

水族館って「どんな場所」だと思いますか?

  • 楽しい場所?
  • 癒される場所?
  • 定番のデートスポット?

水族館に行けば、生き物たちが楽しませてくれます。日常を忘れさせるような癒しを与えてくれることもあります。

そんな水族館は、いまでは日本各地に100か所以上もあるようです。多種多様な展示テーマで、観光スポットとしても人気を集めています。

しかし、水族館が増えるにつれて「本来あるべき姿」について、論争が起こる頻度も増えたように思います。

水族館って「どんな場所」であるべきなのでしょうか?

そこで今回は、水族館の役割について調査した結果と個人的な考えをまとめてみます。

水族館に対する違和感

日本の水族館は、毎年増えたり減ったりしています。とくに新しくできた水族館は、斬新な展示手法が話題になりがちです。

  • 鮮やかなライトアップ
  • プロジェクションマッピング
  • 独創的な水槽レイアウト

ライトアップやプロジェクションマッピングは、イマドキの流行を感じさせます。いわゆる「映えスポット」ってやつです。

しかし、この「映え」を主体とする展示に、どうしても違和感がありました。別に水族館じゃなくてもよかったのではないか?

展示方法や飼育管理が問題となることも

金魚の展示で人気を集める「アートアクアリウム美術館」が、2020年に炎上しました。

炎上した要因をザックリとまとめると、以下のとおりです。

  • 金魚の健康状態が悪い
  • 水槽管理が悪い
  • 飼育環境が悪い

遠くから見れば「金魚が泳ぐ美しい水槽」かもしれません。しかし、近くで見ると、病気で弱った金魚が力なく泳いでいたようです。

展示方法によるエンタメ性を重視したことで、水槽管理や飼育環境に問題が発生してしまった。

水族館の経営を持続するためには、人を惹きつけるエンタメ性も必要です。とはいえ、商業目的が主体となる展示には、どうしても「見世物小屋」のようなネガティブな印象を否定できません。

水族館って何のためにあるの?

そもそも水族館って「何のために」あるのでしょうか。その結論(一例)として、日本動物園水族館協会(JAZA)が4つの役割を定義しています。

4つの定義
  1. 種の保存
  2. 教育・環境教育
  3. 調査・研究
  4. レクリエーション

上記は、あくまでもJAZAが定義する役割です。JAZAに加盟していない水族館もあるため、基本的には「管理・運営者が掲げる方針」に基づき運営しています。

しかし、多くの水族館にとって、4つの役割は生き物や自然環境との共生には欠かせない「共通認識」です。

①種の保存

水族館では、希少な野生生物の保護や繁殖を目的とする「種の保存」に取り組んでいます。

おもな取り組み
  • 個体数や生息域を減らす野生生物の保護・繁殖
  • 繁殖した生き物による野生群の回復
  • 水族館同士での協力(ブリーディングローン)

たとえば、名古屋港水族館では「ウミガメの保護・繁殖」に取り組んでいます。水族館で繁殖したウミガメを野生環境に戻すことで、環境改善や行動データの取得に役立てています。

また、水族館の飼育環境は「自然災害や外敵による影響」を受けにくいため、安全に育成できるメリットもあるようです。

希少動物の繁殖を目的とした「ブリーディングローン(水族館同士での貸し借り)」も日本各地で広まっています。

名古屋港水族館のシャチ「ステラ」は、繁殖活動を目的に鴨川シーワールドから貸し出された個体です。無事に娘の「リン」を出産して、名古屋港水族館で仲良く暮らしています。

すべての野生生物が水族館の飼育環境に順応できるとは限りません。反対に、飼育環境に慣れた生き物が野生下で生きていけるかどうかも然りです。

水族館で「共に暮らすこと」が、生き物を深く理解するヒントにつながるのかもしれません。

②教育・環境教育

水族館では、本や映像では得られないような生き物の体感を目的とする「教育・環境教育」に取り組んでいます。

おもな取り組み
  • 生き物の生態解説
  • ガイドやふれあいなどの体験プログラム

水槽の解説パネルには、生き物の生態や楽しい豆知識が書かれています。事前知識を得てから水槽を観察することは、生き物を「楽しく学ぶ秘訣」です。

また、生き物の生息域ごとに展示エリアを分けている水族館もあります。生き物たちが本来生息している地域や、野性下の現状を知るきっかけが生まれるでしょう。

エサやりやふれあい体験のイベントでは、飼育員や解説員によるガイドも実施しています。生き物の食事風景や鳴き声・においをリアルに体感できます。

また、イルカやシャチのショーパフォーマンスを見ると、身体能力や知能の高さにビックリするはずです。水族館で見たシャチのイメージは「怖い」から「人懐っこい・賢い」に変わりました。

③調査・研究

水族館では、生き物の生態や生息環境の「調査・研究」に取り組んでいます。

おもな取り組み
  • 飼育による生態研究
  • フィールド調査
  • 研究・調査結果の発表や連携
    (水族館同士や大学・研究機関など)

水族館の生き物たちが長く快適に暮らせるよう、生態や飼育方法の研究・調査を実施しています。

また、近年は生息域を減らした(失った)野生生物も増えているため、飼育環境での繁殖活動の取り組みも欠かせません。

地球上には、さまざまな生き物が暮らしています。野生の生き物たちが暮らす環境を知るのは、人々の生活にもとても重要なことです。

  • どんな場所に
  • どんな生き物が
  • どのように暮らしているか

まったく知らない生き物たちも、海洋資源として人の生活に間接的なかかわりがあります。海洋生物の多様性を守ることは、豊かな自然と人々の生活を維持するためには欠かせません。

水族館が取り組む調査や研究は、展示紹介されることもあります。大学や研究機関と連携することもあり、大人も子どもも「生き物を学ぶきっかけ」につながるはずです。

調査や研究の成果を発表し、水族館同士で共有する機会もあり、飼育管理の技術向上に大きく貢献しています。

④レクリエーション

水族館では、お客さんに楽しい時間を提供するための「レクリエーション」に取り組んでいます。

おもな取り組み
  • レジャースポットとして楽しさを提供
  • 興味を惹きつけるような展示の工夫
  • 「命の大切さ」や「生きることの美しさ」を伝える取り組み

水族館は「研究施設」と「レジャースポット」の役割を兼ね備えています。「命の大切さ」や「生きることの美しさ」を伝えるためには、水族館を楽しみ、生き物に興味をもつことが大切です。

生き物には、知られざる魅力がたくさん秘められています。展示手法やショーパフォーマンスなど、さまざまな工夫で生き物の魅力を引き出せることが水族館の強みです。

水族館の取り組みは「学ぶこと」と「楽しむこと」のバランスが大切です。

  • 学びだけでは、来館者の関心を集められない
  • 楽しみだけでは、生き物たちが疲れてしまう

水族館は生き物の不思議や水の世界の美しさを体感することで、日常の疲れやストレスを癒すきっかけを提供しています。レクリエーションの主役は「生き物」であり、出会いやふれあいで感じる楽しさに価値が生まれるはずです。

水族館の役割を自分なりに考えてみた

水族館に訪れた人が生き物について考えて行動する「きっかけ」を与えること。

水族館の役割は「生き物を深く理解し、お客さんに伝えること」だと思いました。そして「調査や研究」と「エンタメ性」のバランス(両立すること)も大切であると感じています。

  • 生き物を知るためには「調査や研究」が必要
  • お客さんに伝える(興味をもってもらう)ためには「エンタメ性」も必要

このバランスが偏ってしまうと、水族館の役割は成立しません。とくに生き物を軽視したエンタメ性は、命の大切さを教育する機関として不適切です。

水族館の役割は「生き物」と「お客さん」の存在で成り立っています。どちらも楽しく健全な水族館が、これからの時代に適しているのかもしれません。

好きになれば大切にするし、興味をもてば詳しくなろうとします。「大切にすること」「詳しくなること」は、生き物との共生に必要であると感じました。

最後に|とある本を読んで感じたこと

この記事を書く少し前に『動物園から未来を変える』という本を読みました。動物園や水族館の楽しみ方、生き物の背景を考えるきっかけとなった一冊です。

  • どんな環境で暮らしていたか
  • どんな魅力があるか
  • 野生環境で問題を抱えているか

動物園で暮らす動物を見て、上記のような背景を考えたことはありませんでした。しかし、実は見逃していただけかもしれません。

展示レイアウトや解説パネルに注目すると、生き物に詳しくなるヒントがたくさん見つかりました。

動物園や水族館には、さまざまな生き物が暮らしています。飼育されている生き物たちが幸せを感じているかどうか、僕にはわかりません。

そんな彼らのためにできることは「興味をもち、背景を知ること」だと思います。

  • 動物園は、メッセージ性のある展示を増やす
  • 来園者は、メッセージを受け取り意識と行動を変える

水族館とお客さんが、ともに意識と行動を変えることが、生き物たちの未来を変える一歩につながるはずです。

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